1 World Youth Meeting(国際協働学習イベント)の開催
4月から準備をはじめ、年間を通して計画を立て実施した。主には、8月6日、7日に行う英語プレゼンテーション大会を中心に据え、プレイベント、ポストイベントを含め、デザインされた。特に英語プレゼンテーションにおいては「構成のあり方」「話し方」「ファイル作成」の3つの項目評価基準を明確にしてきた。その結果、英語プレゼンテーションとしては完成度の高いものになった。特に、異文化をもった参加者が話し合いにより最後に作り上げる作品はただ単に交流だけではなしえない、「conflict」を乗り越えた新しい国際協働作業のモデルとなった。
1-1 2010年度実施概要
テーマ: 「幸せって、何?〜いま世界はつながっている〜」
“What is Happiness? – We are All Connected Now”
日 程: 平成22年8月6日(金)9:20〜14:45
主 催: ワールドユース実行委員会、日本福祉大学
場 所: 日本福祉大学 美浜キャンパス 文化ホール
後 援: 文部科学省、愛知県、愛知県教育委員会、岐阜県教育委員会、三重県教育委員会、美浜町、財団法人名古屋国際センター、財団法人コンピュータ教育開発センター、社団法人日本教育工学振興会 集 客: 724名
1-2 ワールドユースミーティングの目的
ICT、英語コミュニケーションを1年間にわたりデザインされた協働プロジェクトで取り組む
・異文化を持った参加者が、当然起こりうる「文化衝突」を克服しながら、英語プレゼンテーションを作り上げ発表を行う。異文化理解、協働作業など体験的に身につける。
インターネットを活用して、複数拠点間を結ぶマルチラテラルな国際交流を体験すること。
国際連携のあり方を学び今後の英語コミュニケーションのモデルをえること。
情報化社会で必要とされるインターネットスキルを獲得すること。
適切な国際感覚をもち、国際交流を通じ自らのアイデンティティーを確立すること。
・学校の壁を越え、国際的な連携のあり方を学習する。
・国際協働プロジェクトのデザインを学習する
・実践で生み出された英語プレゼンテーションなどを教材DVDに収録する。
1-3 参加校
【国内からの参加】
大 学: 日本福祉大学、関西大学、中京大学、東京国際大学、立命館大学
高 校: 日本福祉大学付属高校、扇町総合高校、立命館宇治高校、立命館中学校・高等学校、
大阪夕陽丘学園高校、南山国際高校、羽衣学園高校、福井商業高校、
早稲田大学本庄高等学院、四日市西高校、若狭高校
【海外からの参加】
フィリピン: University of the Philippines、Mindanao Kokusai Daigaku
インドネシア: SMA Ngeri 2 Jogjakarta
カンボジア: Royal University of Phnom Penh
マレーシア: Universiti Sains Malaysia
台 湾: I-Shou University
National Sun Yat-sen University
The Kaohsiung Municipal Kaohsiung Senior High School
Kaohsiung Municipal Girls’Senior High School
National Feng-hsin High School
Chung Chen Armed Forces Preparatory School
Kaohsiung St. Paul's High School
Kaohsiung Commercial High School
San-sin High School of Commerce and Home Economics
San-Min Home Economics & Commerce Vocational High School
韓 国: Ehwa Womans University High School
中 国: The High School Affiliated to Renmin University of China
2 実践のフレームワーク
国際交流学習の基本的なフレームは、期間とステージイメージを明確にし、何が協働の成果物であるかを明確にすることである。WYMはステージを3つに分け、協働でプレゼンテーションを作成するという目標を設定している。その目標を達成するために、ICTの活用が必要不可欠であり、また異文化理解、コンフリクトの克服が同時に達成されていく。また教師の役割も重要である。多様な文化が混ざり合う国際協働学習の舞台では、教師の積極的な介入が必要である。そのために教師が意義と役割を明確に持ち、国際的な分業を進めて行くことが重要である。
2-1 3つのステージ
図のごとく、夏休みに行われるWYMを中心に据え、プレイベント、と事後のポストイベントを設置し、3つの活動フェーズを設定した。このような設定が,年間を通した交流を可能とし、タスクベースなプロジェクトとして実践できる。参加校を増やすことによって国際協働学習のすそ野が広がっていく。
2-2 支えとなるタスク
それぞれのフェーズにおいて、何が目標となる活動なのかを明確とした。文化の異なる国が集まり、交流を深めていくワールドユースミーティングであるが、ステージごとのアウトカムがそれぞれの活動を支え、全体の交流を促進していった。図のごとく、フェーズにおいての活動を明確にした。
2-3 グローバル時代の教師の役割
海外学生・生徒は日本への旅行ということで交流、ホームステイなど新し出来事にわくわくしながらやって来る。教員とてとても楽しみなイベントとである。しかしながらこのWYMは、ただ単に交流するだけではなく、次の様な事柄が教員には要求される。
・学習者が自ら体験しながらその意味を把握し、その発見に教員が手助けし、また気付せる活動である。
・オーセンティクな設定の中で、英語がいかに使われるかを体験させ、あわせて、自分の活用モデルをその活動の中に発見させる支援をする。
・異文化を持った学生同士が、粘り強く違いを乗り越えプレゼンテーションの完成に向けて取り組めるよう支援をする。
・作業に必要なモデルや目標を提供し、時には調整役として、英語力、異文化から来る衝突を回避するための指導を行う。
といった活動が教師に期待されている。
生徒、学生への支援、介入
プレゼンテーション作成時にどの情報を活用するかなど意見の対立が当然起こる。また伝え方の違いなどからも「諍い」が起こることが多々ある。異文化を持った人間の協働作業においては当然のことである。この解決法として2つの方法がある。
・モデルを提示し、その意味を理解させ調整する。
教員はそのモデルを提示できるだけ、作成方法について知っておくべきである。昨年までのモデルは動画でサイトより閲覧可能である。適切な英語活用によって、意見調整を促進させる。また協議の後判断を相互にさせ、時には話し合いの末教員が判断することが重要である。
国際的なコンフリクトの解消について、事前に教員間で調整の方法を了解し、手順について話し合っておくことが肝要である。当然のことながら教師には次のことが必要とされる。
教員の連携
高校生、大学生が参加海外学生と十分な交流ができるためには、教師の裏側での活躍が必要となる。学校間で進み具合を調整しながら、電子メールのやりとりによるコーディネーションを学習する。わかい英語教員にとっては国際協働学習の実行を体験的に研修する機会となる。
2-3 フェースブックの登場(Web2.0)
ICTを活用した交流が、前後の動きを活性化させる。とくに2010年度はFacebookなどの新しいSNSが高校生、大学生の間でも活性化し、直接会うことの質を高めることなった。
コミュニケーション言語は当然のことながら英語で行われ、発信する機会も日常的に与えられ、リンガフランカとしての英語が高校生、大学生の中に入ってきた。テレビ会議も効果的に、プレゼンテーション内容の打合せなど、連携校間で頻繁に行われた。
3 成果物
DVDによるE-Learning コンテンツ、サイトによる動画、音声、教材提供、冊子による英語例文提供が成果物となる。
3-1 DVDと冊子
現場の高校の先生達と連携して、この研究に取り組んだ。成果物として、英語活用場面に焦点をあてたマルチメディア英語教材を作成することができた。DVD収録内容は東アジアの学習者を意識した、スピードと発音に留意した。ネイティブの発音だけでなく、英語学習者のプレゼンテーションも収録した。モデルは重要である。あのレベルまで行くと、「交流や、協働作業が可能なんだ」と分かる事は学習動機を高める。
3-2冊子の活用 http://www.kageto.jp/pef/
英語プレゼンテーションサンプルは、5分から7分程度の長さで、授業で使うことを意識すると共に、学習者の「英語バッファー」を考慮にいれた。
・Basic Presentation 自己紹介など、基本的な表現を網羅したプレゼンテーション
・How to make an effective Presentation 英語プレゼンテーションサンプルが用意してある。
・Students Presentation 国際交流のテーマ、海外との共同プレゼンテーションが掲載されている。
・英語プレゼンテーション、必ず使う基本表現 は12年にわたる実践の中で、中学生、高校生、大学生が英語プレゼンテーションの中で使った効果的な表現を編集した。
4 学会での発表
国内外の学会、研究会において先進的実践研究の成果を発表した。ICTの教育利用、国際協働学習をテーマとしているところから、国内だけでなく、海外での発表も多くの質問を受けた。主な参加学会と開催地、論文タイトルは次の通りである。
日本教育工学会全国大会(名古屋)
New Learning Environment for Higher Education Based on the Constructivist theories
ED-MEDIA 2009-World Conference on Educational Multimedia, Hypermedia & Telecommunications Toronto, Canada
An International Collaborative Project Based on Constructivism
International Conference for Media in Education 熊本大学
How to Improve English Presentation Competency through Various Learning Environments
5 まとめ
本研究は、国際協働学習の場を設定し、ICTを活用した教師間の国際連携を実践し、効果的な国際イベントデザインを明らかにすることである。成果物として「英語協働プレゼンテーション」のための音声、動画、E-learningコンテンツを作成した。
・ICT(情報通信技術)を用いての交流
若手教師は次の様に報告している。「我々直接会う1ヶ月以上前から、本校と三民高校の交流は始まっている。まず教員間のメールのやりとりが始まり、参加生徒の情報を共有したりスケジュールの調整を行った。そして生徒は1スカイプによる自己紹介、お互い顔見知りでスタートできることは今の時代ならではのことであるが、この意義は大きい。」
これまで電子メール、メーリングリスト、テレビ会議による打合せなどが行われてきたが、2010年に入って、Facebook (WEB2.0 SNS)の活用が大きな力を発した。これらを、交流ステージに合わせ、英語発信の場、異文化理解の場として設定し、その段階でのアウトカムを明確にすることが重要である。
・国際交流学習におけるコンフリクト
参加者の持つ文化は異なる。今年度は9ヶ国の参加となった。それぞれが国の誇りを持って参加している。どのグループも「コンフリクト」が発生する。教員側はこのことを予測し、解決までの糸口を与えながら、指導を行う。ファシリテーターとしての意識を持ち、自ら適切な英語を活用し合意形成に持って行くスキルが必要とされる。国際連携を実現する教師たちに求められるスキルであり、国際協働研修の場としての意味も合わせて兼ね備えることとなった。
表1 WYM実行委員 関西大学 吉田信介作成
参考
ワールドユースミーティングサイト
http://www.japannet.gr.jp/w2010/
Panasonic教育財団 E-learningサイト
Asian Students Exchange Program
http://www.kageto.jp/asep/2010/