ワールドユースミーティング2000活動報告書
南山国際高等学校 教員 西 亮
1 私の学校
学校名 南山国際高等学校・中学校
URL http://www.nanzan-intlhs.toyota.aichi.jp
記述者 南山国際高等学校 教員 西 亮
メールアドレス ryo@nanzan-intlhs.toyota.aichi.jp
本校は自動車産業で有名な愛知県豊田市にあります。「国際」の名の通り、海外帰国子女と外国人ための学校です。アジア、ヨーロッパ、アフリカ、アメリカなど様々な国々に滞在していた生徒が、それぞれの国での体験を生かして、本校で一緒に勉学に励んでいます。今となっては珍しいとは言えませんが、「制服」のない学校で、生徒たちは思い思いのファッションで学校生活を楽しんでいます。外見的にも内面的にもかなり個性派ぞろいの学校と言えるでしょう。メディアセンター(図書館)にはコンピュータールームがあり、そこでは多くの生徒が、自由にインターネットを利用して、海外の友人とのメール交換などを楽しんでいます。
2 ワールドから得たもの
・国際交流の導入、国際交流の方法
・様々な国の様々な人との出会い
・生きることの楽しさ、人間であることの実感
・子供たちの楽しそうな笑顔、頼もしい姿
・インターネットは人間を豊かにしてくれる手段であるということ
3 国際交流への道筋(ワールドへの参加のねらい)
ワールドユースミーティングには、これまでも何らかの形で参加をしてきました。今回は、本校の特色である「海外帰国子女と外国人のための学校」という点を生かして、何かお手伝いができないかと考え、教員1名、生徒3名で参加をしました。幸い生徒の一人が台湾人であり、台湾の言葉も日本語も話せるという点で、特にお役に立てたのではないかと思います。
本校ではインターネットを利用した実践として、電子メールの利用、Web閲覧、Web作成、それらを総合した国内学校間交流を授業の一環として行ってきました。ただ、教員である私の怠慢と英語力不足のため海外との交流をためらってきた面がありました。そこで海外との交流を進めていくために、ワールドユースミーティングがそのきっかけとなるのではないかという考えもありました。今回、様々な国の方々と出会い、コミュニケーションする機会があり、英語力はもちろん必要ですが、もし上手に話したり書いたりすることができなくても、今まで学んだ英語をへたはへたなりに利用してなんとかコミュニケーションをすることができるという自信ができました。また本校生徒が、表舞台には出なくともかげで一所懸命自分にできることをやろうとしている姿を見て、本校生徒の可能性を見出すこともできました。
4 ワールド奮闘記
本校は、途中からメーリングリストに参加させていただき、主に台湾の高校生とのメール交換からワールドユースミーティングに関する活動が始まりました。自己紹介から始まり、日本と台湾の音楽事情、アルコール問題などについて意見交換をし、「まだ何も知らない相手」から「早く実際に会ってみたい存在」へとお互いの関係を徐々に作っていくことができました。ちょうど5月連休明けから本校のコンピュータがリニューアルし、生徒が気軽にインターネットを利用できる環境になりました。そのおかげで生徒は(テスト期間を除いて)毎日メールチェックをすることができるようになり、ワールドユースミーティングの雰囲気にのめりこんでいったようです。また7月22日のワークショップの説明会を兼ねて、中京大学の方々が本校を訪問されました。日頃、大学生とは話す機会のない高校生にとっては、そのことも刺激となったようです。
7月20日、名古屋空港で台湾の高校生を迎え、南山国際では、台湾の男子生徒2名をホームステイとしてお預かりしました。翌日の7月21日には、台湾の男子生徒2名、南山国際の生徒5名で名古屋市内の観光でした。大須観音で10時に待ち合わせをし、それから大須の商店街をゆっくり見て回りました。昼食は、少々雑多な感じのするせまいお好み焼き屋に入り、お好み焼きやかき氷をみんなで食べましたが、そのせまい空間の中で気楽に一緒に食事をしたことが台湾の高校生と南山国際の生徒との心理的な距離を縮めてくれたようです。南山国際の古屋くんは、台湾の高校生と南山国際の生徒間の通訳として特に活躍してくれました。大須で、日本らしいもの(日本の着物、風鈴、神社など)や、お互いに関心のあるパソコンショップを見学した後、名古屋の中心地、栄まで歩きました。真夏の暑い盛りですから涼しいところを探し、最終的に「東急ハンズ」に行くことになりました。東急ハンズには変わったおもちゃ、お面、変身グッズ、飛行機の模型など興味を引くものがたくさんあります。ここではお互いに台湾人であるとか日本人であるとかに関係なく、同じ世代の男子高校生としてそれぞれが興味を持っているモノについて話しながら、交流を深めていきました。意気投合した彼らは、私(教員)ぬきで、夕方からある生徒のお宅に集まり、花火などをして楽しみ、その1日を終えたようです。
7月22日当日、まずはワークショップ「縄」の始まりです。好きなTシャツを選び、裸足になって会場の床の上に腰をおろし、そこでTシャツに自分の自己紹介、アピールなど何でもいいからマジックを使って書き込んでくださいという指示が出されました。今から何が始まろうとしているのかを生徒らは戸惑いながらも、Tシャツに何か書き始めます。周りを見渡してみると思い思いのことを絵や自分の国の言葉、外国語を使って書いています。本校の生徒は何を書いているのやらと覗き込んでみると、全員が、「南山国際」という学校名、背番号(野球好きの生徒の影響)、自分の名前など書いています。教員としては、「一人一人もっと自由に書いてみたら?」という言葉をこらえ、しかし「この子達は南山国際が好きなんだな。」と少々、うれしくなったりもしました。
そのTシャツを着ての「こんがらがりゲーム」で、学校ごと、国ごとのかたまりがほぐれてきて、よい雰囲気になってきました。そして縄プロジェクトが始まると、どうもシャイな男子ばかりの本校生徒は、またまた本校生徒だけでかたまりがち。いろいろとはっぱをかけながらも、少しずつ他校の生徒、外国の生徒と親しくなっていけるのではないかという淡い期待をいだいて、教員の私も一緒に縄プロジェクトを楽しみました。本校生徒は、積極的に交流をしようとする気持ちをなかなか行動にあらわすことができないようでしたが、この縄プロジェクトのおかげで参加者全体に何か「つながり」を感じる雰囲気ができたのではないでしょうか。
22日の夜は、いよいよプレゼンテーションの仕上げです。南山国際生徒3名は、台湾の高校生、ゆめ学園の生徒さんたちと同じグループです。プレゼンテーションの準備はほとんど他校まかせでしたが、より分かりやすいプレゼンテーションにするための協力をわずかながら本校生徒もお手伝いすることができました。その中でシャイな男子3人も、ゆめ学園の女の先輩らと少しずつ意見を交換しながら、プレゼンテーションへの参加を意識してきたようです。プレゼンテーション作成・発表練習には、22日の夜遅くまで、また23日の朝早くから時間ぎりぎりまでかかりましたが、本番を成功させようという気迫でグループ全員が集中して取り組みました。ゆめ学園の平山先生、生徒さんには大変お世話になりました。私はもちろん、本校生徒3名も、ゆめ学園の方々の姿から、「もの」をつくることの大変さ、そしてそれに勝る喜びを教えていただいたような気がします。台湾の生徒は、既に自分たちでプレゼンテーションのファイルをほとんど完成させており、コンピュータを扱う技術、コミュニケーションを円滑にするための英語力には、大変驚きました。
さて23日、本番当日を迎えました。西陵商業の生徒さんによるダンス披露、後藤先生、イレーネさんの講演に引き続き、それぞれのグループからの発表です。「台湾・ゆめ学園・南山国際グループ」の発表は、高校生の発表としては最後です。それぞれのグループの発表が終わり、いよいよ私たちのグループの発表です。台湾の高校生、ゆめ学園の生徒さん、南山国際の1名(通訳担当)が発表者の位置に立ち、南山国際の残る2名は、パワーポイントで作ったプレゼンテーションのページをめくっていく係として、操作するパソコンの前にスタンバイしました。台湾の高校生から台湾のボランティア活動に関する発表があり、その後台湾の高校生と共同制作した「台湾・日本間のミスコンセプション」に関する発表です。飲酒問題、喫煙問題、政治への女性参加に関する問題、環境問題など多岐にわたった内容で、台湾側と日本側が交互に、お互いを比較しながら、調査内容とそれに基づく2国間の共通点、相違点を発表していきました。日本には青少年もすぐにお酒が購入できるような自動販売機がいたる所に存在するということ、台湾では公共の場所はほとんど禁煙であるということ、日本とは比較にならないくらい台湾では女性が政治にかかわっているということ、台湾も日本も環境問題に対しては同じような考え(たとえばエアコンの温度設定)であるということなど、具体的な観点から分かりやすくプレゼンテーションを行うことができたのではないでしょうか。南山国際のページ操作担当の生徒も、発表をよく聞きながら、それに合わせて上手にコンピュータを操作することができました。ひとまず一件落着と、席に戻った彼らはお互い顔を合わせながら、喜びの表情を浮かべていました。
ジンバブエのムテンダさんからのジンバブエにおけるインターネット状況の発表、総評などが終わり、ワールドユースミーティング閉会となりました。
7月24日は、日本、台湾、ドイツの高校生、引率の教員で伊勢バスツアーでした。伊勢神宮のおごそかな雰囲気の中で、何枚も何枚も写真をとっている姿は、ほほえましい光景でした。一緒に写真をとるということだけでも、国と国との壁がなくなり、それだけでなごやかな雰囲気になるものです。ただ、やはり同じ国の人間ばかり集まりがちなのは相変わらずでしたので、本校の生徒に「おかげ横丁での食事、買い物のときは、他国の高校生にいろいろ教えてあげてね。」と一言だけいうと、シャイボーイ3人組も、特に台湾の高校生たちの間に入って、いろいろとお手伝いをしてあげたようです。交流にはある程度、勇気や冒険心が必要です。南山国際の3名に関しては、今回のワールドユースミーティングに参加したということだけでも冒険だったと思うのですが、参加して実際に交流する上で、勇気を出して語りかけるという姿勢も少なからず養えたのではないでしょうか。
5 生徒はどのように育ったのか
本校の生徒が帰国子女か外国人であるということは先に書きました。それゆえに日本で再び(または初めて)暮らすようになり、故あって縁あって南山国際に入り、本校の生徒だけでかたまりがちになってしまうような状況もあります。日本に帰国して、近くの中学や高校に通ったところ、英語がしゃべれる、ファッションが何か違うというだけでいじめに近い扱いを受けてきたような生徒も少なくないようです。そのような中で、本校の生徒にとっては、日頃付き合うことのない他校の生徒、また他国の生徒と、今回初めて出会い、ワークショップ、プレゼンテーション準備、プレゼンテーション本番、伊勢バスツアーなどを通じて交流をすることができたことは、それだけで一人一人にとって大きい収穫だったことでしょう。またある生徒にとっては自分の持っている語学力を生かせたことが自身につながったことでしょう。そして全ての生徒が、これからも様々な人と出会いたいという欲求を強くすることができたのではないでしょうか。
南山国際のダニエルくんとアレックスくんは、感想文の中で次のようなことを述べています。
ダニエルくんの感想より
「(コンピュータの)操作役とは言え、発表者の内容に合わせて画面を展開するために実行キーを押下していくだけの作業だったせいか、大きな失敗も無くほっとした反面、発表に参加したという実感があまり湧かなかった。次回はもっと大役(発表者など)を勤めてみたい。」
アレックスくんの感想より
「強く感じたことは、人と人とのコミュニケーションの姿勢と、方法(特にインターネットの活用)と、全てに対しての積極性の大切さ、の三つです。」
後日、ダニエルくんから「来年もぜひワールドユースミーティングに参加したい。今度はもっといろんな面で積極的に行動したい。」という言葉をもらいました。今回、私自身が、できる範囲のお手伝いができればいいのではないかという考えで、本校の生徒を参加させました。しかし実際に参加してみると、生徒たちは、もっとお手伝いしたい、もっと積極的に参加したいという希望を強くしていたようです。この生徒たちの可能性を信じて、来年はより貢献できる形で、ワールドユースミーティングに参加したいと思います。
6 教員として得たもの
教員の喜びは、やはり生徒の笑顔、ひたむきな姿を見ることにあると思います。そのために彼らが活躍できるような場を提供すること、その場で彼らがより輝けるようにヘルプをすることが大事です。私個人のモットーは、生徒たちに「出会い」の場を提供することです。私自身が今回のミーティングを通じて、様々な方々と出会い、一緒に行動し、語り合う中で、私自身の出会いの喜び、人間として生きていくことの喜びを得ることができました。ワールドユースミーティングにかかわっている方々には当てはまりませんが、どうしても教員の世界というものは閉鎖的です。一人の人間として教育現場で生徒たちとかかわっていくには、教員個人が様々な人間と出会い、語っていかなければなりません。ワールドユースミーティングの活動が、その示唆を与えてくれるのではないでしょうか。
ところで今回出会ったある方から含みのある言葉をいただきました。南山国際のインターネットを利用したこのような活動への参加姿勢に関することです。私が「南山国際は他の学校と比べれば遅いけれど、半歩ずつでも前に進んでいます。」という話をしましたら、その方が「いや、それは違う。半歩でも進んでいるのではなくて、半歩遅れているんだよ。」と話されました。私にとっては痛い一言でしたが、このように批判をしていただけるような方がいらっしゃるということが、私のこれからの活動への奮起をうながしてくれました。これも人との出会いの賜物です。
7 まとめにかえて
私の趣味は音楽演奏です。7月22日の「縄プロジェクト」の際に、全員で縄をなっている真ん中で、ギター、太鼓、笛など様々な楽器を用いて大学生や高校生が音を鳴らしていました。音楽好きの私としては、教員であることも忘れてしまい、その輪の中に飛び込んでしまいました。ドイツの高校生がギターでいくつかのコードを使ってリズムを刻んでいます。私は思わず笛を持ち、それに合わせて我を忘れてアドリブの演奏をしてしまいました。楽器と楽器とのセッションというのは、お互いの音、フレーズを聴きあって会話をしていきます。ただそれだけでなく、お互いに顔を見合わせて、「次はこんな感じでどう?」、「よし、それだ。」と、声を出さずに会話していきます。そのようにして体全体で会話をしながら、セッションが盛り上がっていきます。その中でそのドイツの高校生と私は、「ある国の高校生」と「ある国の教員」ではなく、一人の人間と一人の人間になってしまいます。音楽は国境のない言葉だとよく言われますが、そのことを初めて実感しました。
ワールドユースミーティングは、インターネットという道具を有効に利用した国際交流ですが、結局、インターネットという道具も、音楽と同様、他とのコミュニケーションをうながしてくれる最適な手段だということをあらためて感じました。やはりインターネットには何か人間を人間らしくしてくれる不思議な可能性が秘められているのではないでしょうか。前にも書きましたが、ワールドユースミーティングに参加することで、「人間でよかったな。」、「生きるということは面白いことだな。」と大げさかもしれませんが、そのように暖かい喜びが私の胸に湧いていきました。ぜひ来年も生徒ともども参加させていただきたいと思います。